持っている本の冊数

今の家に引っ越してきた2年半前には、本の数は多分1500冊くらいだったんだろうと思います(当時のダンボールの数から推定)。でもそこからがーんと数百冊単位で売り払ったり、毎月数十冊づつコツコツ(?)買ったりしてるので、今、何冊あるのかはさっぱりわかりません。なんかいっぱいあるね、とは思う。めんどくさいから、数えるのは絶対に嫌です!実家にも本がいっぱいありますが、それも数えるのは絶対に嫌です!めんどうです!

今読みかけの本 or 読もうと思っている本

■今読んでいるのは
古本買い十八番勝負 / 嵐山光三郎
鬼平犯科帳(3)/池波正太郎
今、鬼平さまに夢中、好き好き鬼平さま、わたしと結婚して!


■最後に買った本(既読、未読問わず)
「不良中年」は楽しい/嵐山光三郎講談社文庫)

■特別な思い入れのある本、心に残っている本5冊(まで)
好きな本ベスト5とかは絶対に選べない!理由はわたしは優柔不断でずばっと5冊に絞れないからです!
だからテーマを決めることにしました。

わたしのおすすめ昭和モダン文学5編(冊じゃないし…)
昭和初期の小説が好きです、大好き、と人に言えるほど数を読んでいないような気がするし、偉そうなことは何も言えないのですが、でも好き。好きなもので、モダンだなーとわたしが勝手に思っているものを5つ並べてみました。

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渡辺温/父を失う話:青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/000020/card229.html

渡辺温―嘘吐き(ラ・メデタ)の彗星
渡辺 温
博文館新社 (1992/10)
売り上げランキング: 227,705


渡辺温すばらしい、すてき!かっこいい!イカス!って(口で)言い続けてるんだけど、やっぱりそういうのはちゃんとweb上でも言っていかなきゃいけないんだなあと思ったので、声を大にして言うことにします。渡辺温の小説はかっこいい!イカス!素敵!

で、おすすめは他に色々あるんだけれど、代表作と言われていて、青空文庫で読めて、短い(web上で読む小説は短いほうが読みやすいように思ったので)これを。

物語のあらすじはタイトルそのまんまで、文字通り「父を失う話」。
主人公の少年とたった10歳しか違わないという父と、少年が父を失うまでの奇妙な思い出。これが、なんともヘンな後味を残す物語なんですよ。かなしいのか、笑えるのか、真面目なのか、ユーモアなのか、なんなのかよくわからない。でも面白い。

そのデタラメさ加減ゆえに「デタラメ派、いやラ・メデタ派」と言われていた渡辺温の小説はモダンで、イカしてて、かわいくて、なんともいえない魅力があるのですが、その魅力を上手く説明できない。とにかく読んでみて!というしかないような。
サニーデイ・サービスの曽我部氏も(確か雑誌かなんかで)好きな作家として渡辺温の名をあげていたような記憶があります。

谷崎潤一郎に見いだされ華やかにデビューし、「新青年」の編集者のひとりであり、事故で27歳の若さで世を去った渡辺温水谷準は後に「オンチャン(渡辺温のこと)を生かしておいてくれれば、日本の小説界はまた別の一つのジャンルを開拓し得ていたかもしれない」*1と書いています。(追記:頭の中で谷崎潤一郎の文章とごっちゃになっていて、最初、谷崎潤一郎が書いた、と書いてしまいました。この文章を書いたのは水谷準です。)

渡辺温の小説は(本としては)やや手に入りにくいのですが、著作権が切れているため、青空文庫でガンガン読めます。

http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person20.html

尾崎翠の小説「初恋」を好きな人ならきっと渡辺温の小説「少女」も好きだと思うんだけれども、と思っていたら

渡辺温作品目録
http://homepage3.nifty.com/DS_page/watana_o/list.htm
にて

川村湊『日本の異端文学』(集英社新書)に「姉の愛・妹の恋−渡辺温尾崎翠」という章があるらしいことを今発見。近々読んでみようっと。

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「手術としては麻酔もいらない至極簡単なもので、普通の内膜炎掻把の程度だと聞かされてはいたが、案ずるほどのこともなく方便なもので、赤ン坊のころから医者も薬も手術室も切開刀(メス)もいわばもう慣れッこな魔子は、覚悟を決めると、さっさと自分でさんじゃくを解いて、脚の先からこかしてとた猿股(ズロース)と一緒くたに、脚元の乱籠へ落とすと、手術台の冷たい白エナメルの上へ自分ではい上がって……」*2

なんと手術シーンから始まる前代未聞の小説。

これも非常に本が手に入りにくい(わたしもコピーしかもってない!)ので、「魔子」の魅力を知ってもらうために、冒頭を引用してみました。

まるで男の子みたいな、おかっぱの、まるで「フランス女のような」モダンガール魔子。兄妹のように共に育った兄のようなその恋人。「兄妹とも友人とも無論恋人ともつかないちんまりした二人だけの生活」はまるでままごとのよう。
しかし、そんなふたりの生活に、魔子の病が暗い影を落します。

普通に考えれば随分と辛い状況の筈なのですが、ふたりはあくまでもカラリとしていて、全体があくまでも明るいトーンで書かれています。


「彼は日本の多くの近代小説が泥々とした内面吐露や湿った心情告白を繰返していたときに、ひたすらオブジェに心を向かわせ、乾いた清潔な世界を作り上げた」*3川本三郎龍胆寺雄の小説について語っていますが、その「乾いた清潔な世界」こそが龍胆寺雄の魅力だなあと思うと同時に、これこそ昭和モダン文学の魅力と言えるかもしれないなあ、と思いました。


「魔子」は絶版で手に入りにくいけど、同じ魔子が出てくる「放浪時代・アパアトの女たちと僕と」は現在も講談社文芸文庫で手に入ります。

放浪時代・アパアトの女たちと僕と
竜胆寺 雄
講談社 (1996/12)
売り上げランキング: 305,870

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尾崎翠集成〈上〉
尾崎翠集成〈上〉
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尾崎 翠 中野 翠
筑摩書房 (2002/10)
売り上げランキング: 23,575

尾崎翠の代表作といえば「第七官界彷徨」(官の字を感と表記している人が多いみたいなんですけど、感覚の感ではなくて官能の官です!)「こおろぎ嬢」「アップルパイの午後」「地下室アントンの一夜」「初恋」といった所だと思うのですが、そういった代表作以外にもぐっとくる小説がたくさんあります。これは筑摩の全集にはじめて収録された「新発見」の小説のひとつ。

顔も見たことのない男に恋してしまったレストランの女給「お洋」。「刺のある牡丹」「素的なモダン」「知的美貌」だとレストランの客に騒がれる美しい彼女は、決して現実の男には恋をせず、煙草の煙りと香りの中に見る男の幻の中にだけ、恋をします。

「新しい」「早すぎた」と言われる尾崎翠の小説ですが、「昭和初期の小説とは思えない」理由のひとつとして「あまり時代風俗に言及しない」という点もあるように思うのですが、尾崎翠には珍しくこの短編には時代の風俗がいろいろ書き込まれていて、断髪だの、色掛けをした青の着物だの、といった描写が楽しいです。

※但し、この小説は尾崎翠名義ではなく「丘路子」名義で書かれており「これが本当に尾崎翠の小説なのか?」については若干の疑問もあるようです。

http://www.7th-sense.gr.jp/kouki/kouki-con020917.html
わたしは作品の名義等については、上記URLとほぼ同意見で、文体、モチーフの扱い方からして、尾崎翠本人の作だと思っています。また、尾崎翠の作でなかったとしても、この小説はとても好きです。

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おしゃれでやさしいけど、ちょっと頼りない父親の禄さんと、おしゃまで可愛い10歳の女の子「悦ちゃん」は、お母さんがいなくてもとても幸せに暮らしていたのに、禄さんが恋した美人令嬢カオルさんは、邪魔な悦ちゃんを全寮制の学校に入れようとあちこち手回ししています。
断然気に食わない悦ちゃんは、自分の手で理想のお母さんになってくれそうな素敵な女の人「鏡子さん」を見つけだし、お父さんと鏡子さんの間をなんとか取り持とうとするのですが……。

昭和11年新聞小説。かわいい「悦ちゃん」が銀座の町を闊歩し、ジャズを歌い、大人たちを巻き込んでてんやわんやの大騒ぎ!

まるで昭和の「地下鉄のザジ」ですが、悦っちゃんはザジよりもずっとけなげで可愛い性格(笑)で、ホロリとさせられます。

この「悦ちゃん」は絶版ですが、色んなバージョンで出ているので、古本なら比較的手に入りやすいほうだと思います。

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怪奇探偵小説傑作選〈3〉久生十蘭集―ハムレット
久生 十蘭 日下 三蔵
筑摩書房 (2001/04)
売り上げランキング: 74,772

久生十蘭のことを好き好き言っているんですが、よく考えたら読んでない小説いっぱいあるし、全集も端本しか持ってないし、とても熱心な読者とは言えないなあ、と思う。じゃあなんで好き好き言っているか、といえばひとえに「湖畔」と「キャラコさん」が好きすぎるから!好きだから!です。

もしあなたの好きなラブストーリーを5つあげよ、と言われたら絶対に「湖畔」をいれる!
この小説は「この夏拠所無い事情があって、箱根芦ノ湖三ツ石の別荘で貴様の母を手にかけ、即日東京検事局に自訴して出た。」という衝撃の告白ではじまります。

醜いがゆえに人の愛情を信じられず、美しい少女(であり、後に彼の妻となる)陶(すえ)の誠実さや愛情を、主人公が全く信じられないことから悲劇は始まります。ミステリーのようでもあり、ラブストーリーのようでもあり、どのジャンル、という風にくくれないこの小説の鮮やかな構成には、読み返す度にただ唸らされるばかりです。

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*1:アンドロギュヌスの裔(ちすじ)」昭和45年 薔薇十字社

*2:龍胆寺雄全集・第5巻「魔子」冒頭部分

*3:龍胆寺雄全集・第5巻月報/昭和59年11月